税務調査について思うこと

島根の事務所での勤務時代は、いくつもの税務調査の現場に立ち会い、お客様の代理人として直接税務署との議論、交渉にあたりました。その中で、何度も感じたのは、税務調査のあり方に対する大きな疑問です。

税務調査というのは本来、納税者を指導して法令順守に導くのが主目的であって、間違いを厳しく追及して追徴課税をするのが主ではないはず。しかし、私が経験したほとんどの税務調査は、税務署が納税者と対立関係に立って、過去の間違いを熱心に掘り出し、それを突き付けて修正させることで(必ず加算税までかけて)課税実績を挙げることが主眼になってしまっていると感じるものでした。

中には、納税者が隠したり、仮装したりして税を逃れようとした証拠がまったくないのに、重い制裁(重加算税といって仮装・隠ぺいの場合に適用されるやつ)をかけると言われ、「それはおかしいでしょ」と論争になったことも1度や2度ではありません。残念ながら、日本の税務調査では、税務署が納税者との信頼関係を守るということをあまり考慮しないのが実情です。しかしこれでは、税務署と納税者の溝は深まるばかりだと感じます。

今、私は海外の税務行政について研究しています。特に、イギリスとオーストラリアの税務行政はもう20年くらい前から、調査と制裁で納税者に恐れを与えて不正申告を阻止する従来のやり方から、納税者の立場を尊重して、敬意を払うという、「顧客」に対するサービス的アプローチに移行しています。納税者との信頼関係を築いて自発的に正しい申告をしてもらう方針をとっていて、それが大きな成果を挙げています。

大部分の納税者は、脱税の意図などもたない、善良な人たちです。そのような人たちと、調査の現場でわざわざ対立して、過去の間違いを加算税付きで厳しく修正、追徴して税務署や国に対するネガティブなイメージを与えるよりも、できるだけ信頼関係を重視して、納税者に敬意をもって対応することで、全体的に税務に対する意識が向上して、将来の長期的な法令順守を得られるというわけです。

目先の追徴課税の実績ばかりを追い求めるよりも、長期的に、自主的に正しい申告をしようとする人を増やす方が税収アップにつながるというのが、イギリスやオーストラリアの考え方で、私もそう思います。ただ、もちろん、本当に脱税を意図して不正申告をした人に対しては、厳しい罰則でのぞむことは絶対に必要ですが。つまり、大事なのは、信頼関係アプローチと制裁アプローチのバランスをうまくとることです。

今の自分の研究がいつか、少しでも、将来の日本の税務行政というか、調査のやり方を変えることに貢献できるんじゃないかと思い、日々、頑張っています。ただ、そういう変化はすぐに起きるものじゃないので、今は、税務調査の現場で、しっかりとお客様の権利を守るのが税理士の役目だと思っています。

金山知明税理士事務所・国際税務コンサルティングオフィス

神戸に事務所登録をしている税理士、米国公認会計士、大学教員です。

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