今日は、事務所にて租税法の大家である村井正先生の国際課税勉強会「一角塾」にオンライン参加。お題は、令和1年5月30日の東京地裁判決でした。ある日本人会社役員A氏の住所地が日本国内にあるか海外にあるかが争われた事件です。
住所が日本であれば「居住者」なので、日本の会社から受取る役員報酬からは通常どおり源泉徴収しないといけないうえに、海外の会社から受取る役員報酬も日本の所得税の対象となり、それら全部を含めて確定申告が必要になります。
しかし、住所が海外であれば、「非居住者」になり、海外の会社から受取る役員報酬に日本の所得税はかからず、日本の会社からの役員報酬についても、20%の源泉徴収で済みます(役員報酬金額が大きいため、居住者としての源泉徴収税率>20%)。えらい違いです。
A氏は日本にも海外にも住居があり、年間を通して行ったり来たりという生活で、どっちつかずでした。しかし、税法上はどちらの国に課税権があるかハッキリさせるため、居住国を1か国にしぼる必要があります。
A氏としては海外に居住しているつもりで「非居住者」という認識でしたが、税務署はA氏に対し日本の居住者として課税し、これに不服だったA氏が裁判で争ったというものです。そして、地裁、高裁ともに納税者が全面勝訴という、税務訴訟では珍しい結果です。
裁判所は、A氏の日本と海外の滞在日数はあまり変わらないが、A氏の職務の重点が海外に置かれていたことを重視して、A氏は「非居住者」であったと判断しました。滞在日数が半々くらいで、日本に配偶者と子が住む持ち家があり、住民登録等も日本の家にあり、財産の大半も日本の口座にあり、ついでに言えば海外の住居は借家という状況のなかで、地裁も高裁も住所を海外と認めたのは、画期的にも思えます。
所得税は財産税でなく期間課税なので、いまの収入をどこで得ているかで住所を判断するということであれば、海外の会社での職務と収入が多かったようなので妥当な判決といえるでしょう。しかし、恒久的住居である持ち家があるのは日本だったのです。これが財産課税である相続税や贈与税の事案だったとしたら、逆の結果だったのか、気になるところです。
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