国際課税勉強会15(過少資本税制)

今日は国際課税勉強会「一角塾」にオンライン参加しました。今日のテーマは、過少資本税制の適用が争点となった東京地裁令和2年9月3日判決です。

過少資本税制とは、会社が他人資本(借入)を用いた支払利息の損金算入により過剰に所得を節減する租税回避に対処するために、平成4年に設けられた制限規定です(措置法66条の5)。

国内の企業同士が金銭の貸借を行う場合は、債務者側の支払利息が損金になっても、債権者側の受取利息が益金になるので問題は少ないんですが、債権者が国外にいて、利息が国外に支払われる場合、受取利息に対する日本の課税権が失われてしまいます(源泉徴収を除き)。

国際化が進むにつれて、このような機会が増えて、国外(特に低課税国)の株主債権者に対する支払利息を用いた租税回避が横行したために、過少資本税制では、国外にいる株主に対する債務が、その株主からの資本に比べて過剰に大きい場合(3倍以上)は、その超える部分に対する支払利息の損金算入を制限することとされました。

本件は、この過少資本税制の適用が争点となった初めての事件とのことです。事実を簡単に言えば、シンガポールに居住する個人Mから、日本国内の関係会社(原告法人)が多額(160億円以上)の借入をして、これに対する支払利息10億円以上を損金算入したところ、税務署が過少資本税制により支払利息の大部分を損金不算入として課税処分を行なったため、原告法人がその取消しを求めて訴訟を起こしたものです。

この事例で、Mは原告法人に多額の金銭を貸し付けていたものの、実は貸付時点で原告法人の株主でなく、役員でもない、しかも、貸付時においては国外居住者でもなかったので、過少資本税制の規制を受けることを想定していなかったのかも知れません。

たしかに、この制度の債権者の要件である「国外支配株主等」という文言からすると、Mはこれに該当しなさそうな感じがします。しかし過少資本税制では、支配株主ではなくても、というか資本関係がなくとも、多額の貸し付けをしていて、実質的に債務者法人に大きな影響力をもっている場合などは、この国外支配株主等に該当するという趣旨の条文(措置法施行令39条の13第12項)があります。

本件においても、この条文があることにより、少なくとも貸付時点では株主でなく単なる債権者であったMが結局国外支配株主等に当たるという判断がなされて、過少資本税制の適用による課税処分は適法とされました。

支払配当金と違って支払利息が損金算入できることは、いわば常識であり、当たり前の話ですが、関連者間で国境を跨ぐ支払利息を使った租税回避行為が横行するのなら、たしかにこれに制限をかける必要性はあると思います。過少資本税制はまさに、この支払利息の損金性を利用して、出資受入れに代えて借入をして租税回避を意図する場合に、それを制限しようとするものです。

しかし、本件は、株主ではない(1株も所有していない)Mからの借入に対して過少資本税制を適用したものなので、本来の趣旨には合わないともいえます。支配株主でないのに、原告法人の事業資金の相当部分を融資していることにより、実質的に事業方針決定権を持っている場合に「国外支配株主等」に該当するとする規定(措置法施行令39条の13第12項3号ロ)は、過少資本税制の元来の趣旨に照らすと不合理な面があり、そもそも不明確すぎると思います。⇒課税要件明確主義に反する。

本件は、たしかにMが原告法人から受ける利息が非常に大きく(利率も14.5%と高い)、国税側はそれを損金算入させることに強い抵抗を感じたのだろうと思います。とはいっても、村井先生も言うように、資本関係のない債権者への支払利息に対して過少資本税制を適用するのはやはりおかしいという気がします。Mが個人であるため移転価格税制の対象にもならないですが、原告法人が同族会社であったなら、同族会社の行為計算否認規定(法132条)により、適正利率を超える支払利息を寄附金等と認定するほうが、まだわかりやすいという印象でした。

オフィスの窓から。紅葉がきれいな季節になりました。

金山知明税理士事務所・国際税務コンサルティングオフィス

神戸に事務所登録をしている税理士、米国公認会計士、大学教員です。

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