国際課税勉強会14(非居住者源泉徴収)

季節外れの残暑が終わると、突然秋というか冬の気配を感じる気候になりました。今日のポートインク前の公園。

今日は国際課税一角塾にオンライン参加しました。外国法人に対する報酬からの源泉徴収について、源泉徴収義務者と課税庁の争いじゃなくて、(主に)源泉徴収義務者と外国法人の求償債権債務の有無について争われた珍しい事件(東京地裁令和2年6月19日判決)の研究です。

外国法人や非居住者に一定の支払をするとき、それが国内源泉所得(日本国内で生じた所得)に該当する場合には、支払者はその支払金額に所定の率をかけた金額を差し引き(源泉徴収)、税務署に納付することになっています(所法161、212)。

この事件の原告(日本法人J社)は、被告(外国法人A社)に対して人的役務提供対価の支払をしたが、その時源泉徴収をせずに全額を渡しました。その後税務調査で、源泉徴収納付義務(161条1項6号、212条1項)があったことを指摘されたJ社は、指摘に従って税務署に源泉徴収すべきであった金額を納付しました。

そして、その納付後に、J社は納付した金額(本来A社から源泉徴収すべきだった金額)をA社に請求(所法222条に基づく)したところ、A社が支払いを拒否したため、J社がその支払を求めてA社を提訴(民事訴訟)したものです。

A社は、OECDのモデル租税条約のコメンタリーなどに基づいて、この支払は事業対価であり、人的役務提供でないので源泉徴収される理由はない、それに契約上求められていなかった支払債務を遡及的に生じさせようとするのは禁反言に触れるなどと主張して争いました。

しかし結局裁判所は、租税条約にも日本の所得税法にも、この源泉徴収義務を妨げる規定はなく、J社はA社に対してその徴収すべきだった納付税額を請求する権利があると判示して、J社の主張を認めました。

つまり、A社はJ社に対して源泉徴収税額相当額を払わないといけないと裁判所が認めたわけです。しかし不可解なのは、本来A社は、それを払ったとしても損失にならないはずなのに、なぜ争ったのかという点です。

というのも、A社は、J社に対してその税額を支払ったとしても、その税額相当額を、日本での法人税申告のうえで、源泉徴収税額として差し引けるのです。そうであれば、A社はJ社に対して税額相当額を払ったとしても、最終負担税額は変わらないことになります。

A社としてはいずれ日本で法人税申告をするわけだし、J社の判断で源泉徴収をしなかったうえ、源泉徴収の必要性について議論の余地のあるこのような報酬について、遡って源泉徴収税額をJ社に払う意味がないと考えたんでしょうか。

いずれにしても、A社は支払を拒んだわけです。J社にしてみれば、源泉徴収をせずにA社に報酬を全額支払ってしまったために、後で税務署から追徴を受けたうえ、A社にそれを請求をしても、訴訟までやらないと求償できないという厳しい状況だったことがわかります。

少なくとも、このような制度は、源泉徴収義務者に対して過大なリスク負担を強いているということがいえそうです。(所法180条には源泉徴収免除制度はあるが、相手方による事前の証明書の取得が要件で使いにくい)。

不合理な制度とはいえ、法律なので違反とならないように注意する必要があります。この制度に関しては、報酬等の支払先が非居住者や外国法人でないかどうかに常に気を配ることが大事です。

金山知明税理士事務所・国際税務コンサルティングオフィス

神戸に事務所登録をしている税理士、米国公認会計士、大学教員です。

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