国際課税勉強会10(法人税法上の「取引」の意義)

本日は、国際課税勉強会「一角塾」に5時間じっくりオンライン参加しました。

今日の研究判例は、有名なオウブンシャホールディング事件(平成18年1月24日最高裁判決)でした。この事件は、国際税務案件というより、国内法の解釈をめぐる争いですが、やはり発端は国境をまたぐ取引であり、国際間の所得移転が問題であったともいえます。金額も注目度も大きく広く話題になった判決です。

概要はまず原告会社が、含み益の大きい株式をオランダの子会社Aに適格現物出資で移転(この時含み益には課税されていない)し、その後、オランダの別の関係会社BがA社の新株を大量に格安で引き受けることにより、原告会社のもつA社株を希薄化したものです。

意図がわかりにくいですが、つまりは、原告会社の子会社Aは、原告会社から受取った含み益のある財産(株式)を抱えたまま、B社への新株発行を通じて原告会社の支配下から離脱したため、実質的には、原告会社が子会社Aを通じて保有していた財産価値(含み益)が、無税でB社のもとに移転したということになります。

通常、新株を時価より低い価格で引き受けた場合(これを「有利発行」といいます)、その引き受けた者(本件ではB社)に対して受贈益部分の課税がされるんですが、B社は外国法人なので日本は課税できません。そこで税務署は、直接有利発行取引に関与していない原告会社に対し、不当に税を減少させたとして、同族会社の行為計算否認規定(132条)を適用して課税を行いました。

それを不服として原告会社が争い裁判になったのが本件ですが、課税庁はなんと裁判の途中に、その主張を変更して、132条よりも優先して、法人税法22条2項という益金の定義を定めた原則規定により原告法人への課税が正当化されるとしました。この22条2項では、無償による譲渡取引も益金になることを定めています。

つまり国税は、A社からB社への有利発行(価値の実質移転)は原告会社が仕組んだものなので、それは原告会社が行った「取引」(法人税法22条2項)に該当するとして、寄附金/譲渡益を認識することにより原告会社に対して寄附金損金不算入部分(法人税法37条)の法人課税が行われたものと主張し、最高裁は結局これを認めて原告会社敗訴となりました。

納得しがたい判決だと思います。なぜなら、まず何と言っても、原告会社はこの有利発行取引の当事者ではないからです。子会社の経済的価値が他に移転したからといって、親会社が益金を生ずる取引をおこなったことにはならないはずです。

また、本件がすべて国内取引だった場合を考えると、このように取引を擬制して22条2項による課税が許されるならば、有利発行により新株を引き受けたB社に受贈益課税、同時に原告会社に22条2項による益金認定課税(37条寄附金課税)、加えてA社が含み益株式を売却したときに売却益課税という具合に、いわば同じ経済価値に対して3回課税が行われることになり、この点も不合理です(私見)。

ただ、本件では、A社もB社もオランダ法人なので、A社にもB社にも日本は課税することができなかったわけです。国税庁はおそらく、これにより日本の課税権が永久に失われることを問題視して、変則的に(かなり無理をして)原告法人に課税することを選択し、裁判所もそれを認めたのです。本件の原告会社に対する課税は国内での一般論としては肯定されてはいけないように考えます。

しかし、22条2項は原則規定なので、国内取引か国際取引かによって適用がわかれるものではありません。なので、本件の課税が肯定されるなら、国内で同じことがあったとしても課税されてしまうことになります。私見ではおそらく、国内取引で同様の課税をするのは無理だと思います。

なのに、国際取引の場合は、このように国境をまたいで海外に所得が逃げるのはけしからんという理由で、原告会社が課税されるとすれば、それは税法の趣旨に反するといえそうです。

金山知明税理士事務所・国際税務コンサルティングオフィス

神戸に事務所登録をしている税理士、米国公認会計士、大学教員です。

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