国際課税のパラダイムシフト

GWも終盤となりました。今は連休明けの他大学での研究報告に向けて懸命に準備中です。

私が本来探求しようとしているテーマとは少しズレるんですが、この数カ月、デジタル課税と呼ばれる比較的新しい分野について学んでいます。今回の報告もそれに関するものです。

昨今、GAFAのような大規模多国籍企業による、各国の税制の違いを利用した巧みな国際的租税回避の問題がクローズアップされるようになりました。デジタル課税は、OECDとG20がそれに対処することを目指して構築した国際課税ルールの話です。

なので新ルールは大企業を対象にしたもので、中小企業には今のところ影響がありません。ちなみに、デジタル課税といいつつも、新ルールによる課税対象はほとんどすべての業種に及ぶので、もはやデジタル課税制度という名は相応しくないかもしれません。

世界中の国にアクセスをもつ大規模多国籍企業は、これまで色々な洗練された手段を使って、グループ全体の利益のうちなるべく多くの部分を低課税国(または優遇的な課税を提供する国)に集めて、グループ全体の税率を引き下げることに成功してきました。

従来の国際課税制度ではもはやそれに対処できなくなってきたので、特に先進諸国主導で新たな制度が考案されました。それは、大規模多国籍企業グループの実績を国別に把握して、ある国の子会社などで発生した利益への課税率が15%未満の場合、15%に達するまでの部分を、本国で追加課税してしまおうという大胆なルールです。

その名もグローバル・ミニマム課税と呼ばれます。これまで各国でバラバラに対応してきた国際的租税回避の問題に、統一的に対処できる新ルールということで、画期的な変革などといわれています。たしかに、この新税制は各企業の行動に大きな影響を与えるパラダイムシフトといえそうです。

ただ、当然ですが大規模多国籍企業にとっては、大きな税負担、事務負担、リスク負担となります。これまでも国際税制は、大規模多国籍企業に対して、グループ会社内の国際取引価格の公正を保つため、各種の文書作成を義務づけてきました。

このたびのグローバル・ミニマム課税によって、それら文書とは別に、国別の実効税率や税額を計算するための情報申告という事務負担が課され、国別に15%に満たない部分は本店課税され、さらに申告税額に不足があると加算税の対象になり得ます。

それでもこの新たなルールは、ついに近年140か国の国際合意を獲得して、いよいよ動き出すことになりました。日本でもすでに3月にグローバル・ミニマム課税の法案が成立していて、来年度から適用されることになっています。

新たな税制が正当なものとして納税者に受け入れられるためには、その内容がフェアであることはもちろんとして、手続も公正である必要があると思います。多大な事務とリスクを負担して自らルールに従おうとした企業に対しては、何らかの優遇や救済を与える手続法が必要だというのが私の考えです。

そのような措置の必要性は、グローバル・ミニマム課税の分野に限った話ではないですが、それを実現するための手続法について、今後も研究を重ねます。

📷@学園都市

金山知明税理士事務所・国際税務コンサルティングオフィス

神戸に事務所登録をしている税理士、米国公認会計士、大学教員です。

0コメント

  • 1000 / 1000