国際課税勉強会27(移転価格税制に係る推定課税2)

今日は、国際課税「一角塾」に参加し、国税不服審判所平成18年9月4日裁決(モーター輸入事件)についての報告を聞きました。

これは以前(2022年9月17日)の記事で挙げた、移転価格税制上の推定課税の可否と内容が争点となった東京地裁平成23年12月1日判決に関する(その判決の前の段階の)国税不服審判所裁決です。

香港の関連会社から商品を仕入れている請求人法人Xに対して、課税庁Yが独立企業間価格算定のための資料の提出を求めたが、Xがそれに応じないために、租税特別措置法66条の4(移転価格税制)の7項(当時)の推定規定を使って課税した事件です。

Xは、Yが推定計算のために使った比較対象取引が、結局は独立企業同士でなく他の関連者間の取引だったことから、独立企業間価格を推定するのに関連者間取引を用いるのは、移転価格税制の前提に合致しないと主張しましたが、認められず、Xの請求が棄却されました。

納税者が資料を出さない場合、推定計算をするしかないケースはもちろんあると思いますが、この事件でXがYからの提示要求に応じなかった理由の一つとして、Yの調査手法に対する不満があったようです。

課税庁と納税者との間にはもともと大きな情報の非対称があり、納税者が出さない限り、課税庁が知り得ない情報が多いという構造上の問題がありますが、その情報を得る為の調査の現場で両者の関係が悪化すれば、さらに情報提示への協力は得られなくなります。

調査の場で激しく対立したまま推定課税により決着するという結末は、課税庁も納税者も望んでいないはずで、コンプライアンス意識を高めるための税務調査で逆に両者の溝を深め、税務行政への反発を強めることになると思います。

できるだけ課税庁と納税者の信頼関係を築き、納税者の自発的な情報提示を促すには、協力的な納税者を何らかの形で優遇する制度とか、協力的コンプライアンスを得るための課税庁の調査手法の見直しなど、かなり大胆なパラダイムシフトが必要だと思います。

これは研究者として今後私が追求するテーマです。

金山知明税理士事務所・国際税務コンサルティングオフィス

神戸に事務所登録をしている税理士、米国公認会計士、大学教員です。

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