日本居住アメリカ人の外国税額控除

懸賞応募論文の提出が終わり、ほっとして気づけばもう4月でした。今年の桜は早いので、ポートインク前の川沿いではもう散り始めです。

先月、ほかの税理士の方からある相談を受けました。米国市民権をもつアメリカ人A氏が日本に住んでいて、日本の居住者になっているケースです。A氏には、アメリカ国内での株式の売買による所得と給与所得があります。当然、A氏は日本居住者なので、このアメリカでの所得について、アメリカでも日本でも確定申告する必要があります。

この件について相談を受けたのは、主に外国税額控除に関してです。A氏のように、2か国でそれぞれ確定申告納付をすると、二重課税となるので、その二重課税状態から救済するために、アメリカで申告納付した税額を、日本での確定申告時に差引きます。これが外国税額控除です。

外国税額控除は、考え方は単純だけど、その計算とかタイミングが結構複雑です。特にタイミングについて、2020年分のアメリカ所得についての税金を、2020年分の日本の確定申告で控除するのか、又はその翌年分で控除するかで疑問が生じたりします。

その答えは、

① 2020年中にアメリカで源泉徴収されたもの(このケースでは給与所得の源泉税)は日本でも2020年分で外国税額控除する。

② 源泉徴収以外、つまり2020年分の所得として2021年中(期限は4月15日)にアメリカで確定申告納付した分(このケースでは株式譲渡益税)は、日本では2021年分で外国税額控除する。

となります。(所得税法95条1項の書きぶりからして)

ただし、いずれにしてもアメリカで所得が生じたのは2020年中なので、上記①と②に関する所得はどちらも2020年分の日本の確定申告書に入れることになります。つまり、①については、確定申告書に入れたうえで外国税額控除も受けるが、②については、確定申告には入れるけど、外国税額控除は2021年に持ち越すということ。

それから、②の株式譲渡益については、2020年分では控除をうけないけど、2021年分に外国税額控除限度額を繰越すために、「外国税額控除に関する明細書」の国外源泉所得には含めて、2020年分の確定申告書に添付しとく必要があります。そうとう複雑です。

また、余談ですが、

アメリカはちょっと特殊な課税方式をとっており、市民権課税制度により、アメリカ国外に住んでいても米国市民権をもっている人に対しては、全世界所得課税をします。日本を含む多くの国は、自国居住者に対しては全世界所得課税をしますが、国外に住んでる人に対しては全世界所得でなく国内の所得だけに課税します。

つまり、A氏の場合は、米国市民権をもっているので、アメリカでの株式売買益だけでなく、日本で稼いだ所得についてもアメリカに申告納付が必要となります。(ただし、アメリカには国外所得を一定額まで非課税とする特例もあるようで、余計複雑ですが)。

このためか、日米租税条約23条3の(a)~(c)に、アメリカが市民権課税を行使する場合の特殊な規定が入っています。それを簡単な言葉で書くと以下のようになります。


(a) 日本で外国税額控除の対象にするのは、米国市民じゃなくてもアメリカで課される税(つまり米国内で生じた所得に対する税)だけとする。

(b) (a)の外国税額控除をした後の日本の租税については、アメリカで外国税額控除の対象にする。そのアメリカでの外国税額控除によってアメリカでの申告納税が減っても、日本での(a)の外国税額控除は減らさない。

(c) (b)によって日本の租税についてアメリカで外国税額控除する場合、その控除に対応する所得は日本国内で生じた所得とみなす。


つまり、順番として、まず日本でアメリカ国内所得に対する税について外国税額控除をして、次にその控除後の日本の税額についてアメリカで外国税額控除をするという形にするということだと思われます。課税方式が違う国同士が二重課税を調整しようとすると、こんなに複雑になるということですね。


金山知明税理士事務所・国際税務コンサルティングオフィス

神戸に事務所登録をしている税理士、米国公認会計士、大学教員です。

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