本日は国際課税研究「一角塾」にオンライン参加しました。
今日のお題は塩野義製薬事件(令和2年3月11日東京地裁判決)でした。この事件は、原告(塩野義製薬)が所有していたケイマン諸島のリミテッド・パートナーシップの持分をイギリスの子会社に現物出資したことについて、その現物出資が法人税法上の適格現物出資(62条の4)に該当するかどうかが争点になったものです。
法人税の原則論では、現物出資は時価譲渡と扱って譲渡益課税されますが、特例として、完全支配関係のある法人間で行われる場合などは「適格現物出資」といって時価でなく帳簿価額で移転されたものとする、つまり譲渡益課税しなくてよいことになっています。しかし、そのまた例外として、日本にある財産を外国の法人に現物出資する場合は、原則に戻って時価課税とされています。
これは、資産が譲渡益課税されないままに外国に持ち出されてしまうと、日本は永久に課税権を失ってしまうからその持ち出しの時点で課税すべきという理由で、つまり「出国税」的な考え方だと村井先生は言っていました。この事件では、要するに、この現物出資した持分が国内財産か国外財産かが争われたわけです。これが国外財産であれば、国外から国外への現物出資なので問題なく適格だけど、国内財産であれば、財産の持ち出しなので、その時点で時価課税されることになります。
原告は現物出資したのは国外の財産だから適格なので譲渡益課税はないとの考えでしたが、課税庁はこの財産は国内財産と考えて、財産の持ち出しに当たるとして時価課税しました。原告はそれを不服として国税不服審判所で争いましたが負けたので、訴訟を提起しました。
裁判所は、このケイマンのパートナーシップ持分は、たしかに日本の原告法人の帳簿にのっているが、米国の事業所で管理されていたものなので、米国所在の資産だったと認定して、国外財産の現物出資で適格に該当するので、譲渡益課税は不可と判断し、原告法人が勝訴しました。
ちなみに、原告法人は、現物出資した資産はパートナーシップ持分でなく、原告がパートナーシップを通じて所有していた資産であるという主張をしてましたが、裁判所はこれは否定して、現物出資されたのはパートナーシップ持分そのものであるとしました。つまり、この点での原告法人の見解は否定されたのだけど、結果としてそのパートナーシップ持分は国外財産だったと裁判所が考えたので原告勝訴というちょっと特殊なケースでした。
実はこの現物出資に先立って、原告は国税局に相談しており、その時は「適格に該当する」という回答をもらったのでそれを信頼して申告したのに、本件の課税処分はその国税局の回答を覆す形で行われました。なので、それは信義則に反するんじゃないか、それに、このケースで過少申告加算税までかけるのは不合理じゃないかという点も争点になっていましたが、結局別の理由で課税処分自体が取消されたので、それらの点は検討されませんでした。
まず、適格に該当することについて、妥当な判決だと思います。外国の関係会社の株式を現物出資した場合に、適格を認める規定(法施行令4条の3第9項・現行第10項)があるくらいなので、リミテッド・パートナーシップを法人とみた場合もその持分(出資)は適格現物出資の対象とすべきだし、法人とみない場合でも、その持分の価値を形成する事業は海外で行われているから、いずれにしても国内財産を海外に持ち出すような実態がないからです。
その他の争点に対する僕の見解としては、もし信義則の適用が争点となっていた場合、原告が負けて課税取消しができなかったしても、原告法人は事前に慎重に検討したうえで国税局に事前相談までしてその回答どおりに申告したわけなので、少なくとも過少申告加算税を課さない正当な理由が十分にあると考えます。というか、こんな原告の帰責の程度が低いケースにまで制裁的に過少申告加算税をかけるようなやり方は結局、納税者のコンプライアンス意識を害することにつながると感じます。
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